切なる願いは、誰にも聞き届けられることはなく。
就業時間も終わった午後七時。私は、ますます困った状況に陥っていた。
「それでは、谷田部、新・工務課課長の着任を祝って、乾杯ーっ!」
こういうシーンでは断然張り切りモード全開になる美加ちゃんの音頭で、近所の和食料亭において、めでたく谷田部課長の歓迎会が執り行われていた。
今日は花の金曜日。おまけに、気前が良いことに会費は全額会社持ち。
これで盛り上がらない訳がない!
私だって、こういうお祭り騒ぎは嫌いじゃない。
職場の仲間とわいわい楽しくお酒を酌み交わす。おおいにけっこう、大歓迎!
だけど、このポジションはどうよ?
「さあさあ、梓センパイ! 谷田部課長も、どんどん飲んでくださいよー。帰りのタクシー代も出ますから、思う存分本性だしちゃってOKですよ! まずはビールビール!」
本性って、美加ちゃん。どんな本性よ?
とばかりに、人聞きの悪いことを言う美加ちゃんに半眼でジト目を送るけど、正直なところ、私の全神経は左側面に集中している。
なぜなら、『私の左隣』には、実に人当たりが良いニコニコ笑顔を浮かべている、新任課長様が鎮座されているからだ。