うずうずと。

 見たい衝動に突き動かされた私は、応接セットに座る二人にチラリと目を向けた。

 でも、残念なことに、見えるのは課長の後ろ姿と探偵さんの愉快そうな笑顔。

 たぶん、視線を向けていたのは、ほんの数秒のこと。音を立てたわけでもないのに、さすがと言うか(さと)いと言うか、探偵さんは私の視線に気付いてしまった。

 動作には出さずに、丸メガネの奥のつぶらな瞳が、柔和そうに細められる。

 ぎょっとして顔を伏せる間際、視界の端をかすめたのは、探偵さんが投げてよこしたきれいなウインク。

 あの、のほほんとした見てくれに、騙されてはいけない。

 あれは、相手を油断させるための擬態(ぎたい)だ。

 いざというときは、きっと、テレビドラマや小説の中の探偵みたいに、情け容赦なく犯人をあぶり出すに違いない。

 ――というのは、さすがに考えすぎだろうけど、あなどれない人なのには変わりがない。

 麒麟(きりん)探偵、恐るべし。

「はいはい。それでは、へっぽこ探偵の依頼主に、もう一つ重要な報告があります」

 重要というわりに探偵さんの声音はのんびりとしたもので、終始一貫、緊張感のかけらもない。

「なんだ?」

「ヤッコさん本人に、動きがありました」

 息を飲むような、課長の気配。一瞬にしてその場に、緊張が走る。