『違法スレスレ』
『犯罪モノ』
探偵さんの穏やかな口調からはかけ離れた物騒極まりないワードの数々に、私は思わず息をのんで、コーヒーを入れる手を止めた。
再び落ちる先刻よりも長い沈黙が、内容の深刻さを物語っている。
尚も続く、課長と探偵さんとの秘密めいたやり取りにダンボの耳を広げつつ、私は、止まっていたコーヒーメーカーの準備に取り掛かった。
その一方で、脳内で渦巻く想像という名の妄想が、暴走しはじめる。
一介の鉄骨建築会社の一課長が、幼なじみとはいえ、探偵を雇って何かを調査している。
そのうえ、危ない連中に、何か困った場面を盗撮されてしまったらしい。
――って。
課長ってば、毎日私に付き合って残業三昧のくせに、会社の外でいったい何をやっているの?
ポコポコポコと、香ばしいコーヒーの芳香があたりに立ち込め始める中、課長が真剣な声音で探偵さんの名前を呼んだ。
「……風間」
「あらたまって、なんです?」
「新規で、ガードの方も頼めるか?」
「もちろん。そのつもりです。実際会ってみて、俄然ファンになってしまいましたから。可愛らしい人ですね、彼女」
またまた落ちた、今度は、少し成分の異なる短い沈黙の後、探偵さんは、クスクスと楽しげな笑い声をあげた。
「おや? 柄にもなく、照れているんですか? 三十路男が顔を赤らめても、キモイだけですよ?」
――ええっ!?
「うるさいぞ、へっぽこ探偵! 誰が顔なんか赤らめるか。それに、お前だって立派な三十路だろうが」
――へっぽこって。
課長、なんですか、その可愛い言い回しは?
というか、このやり取りを聞いていると、まるで、昔の東悟そのままじゃない。
見たい。
今、どんな顔をしているのか、ものすごく見たい!