「ええっと、ペーパーフィルターと、コーヒーの粉は……」

 豪華だけど、イマイチ生活感がないキッチンスペースで、唯一使用感を漂わせているコーヒーメーカーをセットするべく必要な材料を物色しながらも、応接セットで交わされている課長と探偵さんの会話が気になって仕方がない。

 私にコーヒーを頼んだ探偵さんの意図は、わかっている。

 五分間ですむという、私に聞かせたくない話をするためだ。

 でも、広い部屋の端っこにあるとはいえ、このキッチンスペースは壁に隔たれているわけじゃない。

 だから、会話の内容はどうしても耳に届いてしまう。

 聞いちゃだめだとは思うけど、気になるものだから、私の耳は象さん状態になっている。

『耳ダンボ』ってやつだ。

「この写真の出どころは? まさか、お前が趣味で撮ったわけじゃないだろうな」

――写真?

 写真って、どんな写真?

 未だ不機嫌モード持続中らしい課長の低い声音に、ダンボの耳は、さらに拡大する。

「失礼な。僕に盗撮の趣味は、ないですよ」

 と、盗撮!?

「まあ、依頼なら喜んで受けますけど。しかし、君らしくもなく、うかつに色々やらかしてくれますね。付け入られる隙、満載じゃないですか」

 探偵さんの質問には答えず、課長は逡巡するような沈黙の後、静かに口を開いた。

「……それで、出どころは、ヤッコさんか?」

「正確に言えば、ヤッコさんが雇ったあまり性質の良くない、僕のご同業です。金を積まれれば、違法スレスレの、というか立派に犯罪モノのことを平気でやってのける(やから)ですよ」