うげげっ!

 だったらこの状況はやばい、やばすぎるっ。

 いくら会社の上司と部下でしかない関係でも、平日のこんな時間に部屋に二人きりでいるところを見られたら、ぜったい変な誤解をされてしまう。

 たとえ客人が婚約者候補嬢じゃなくても、課長の知り合いに変な誤解をされたくはない。相手が部屋に来る前に、退散しなきゃ。

「あ、じゃ、そういうことで、私は車で待ってますんで!」

 泡を食ってハンドバックを抱え、くるりと入り口ドアの方へ体を向けたが、時既に遅し。

 ピンポーン!

 ピンポーン、ピンポーン!

 玄関のチャイムがせわしなく三連打。

 は、早っ!?

 まるで、相手の苛立ちが乗り移ったかのようなその響きに、私は思わず、全身金縛りに陥った。

「ったく、せっかちだな……」

 ピンポーン!

 ピンポーン、ピンポーン!

 反応がないことに大激怒。

 更に鳴り響くチャイムにせかされるように、ため息混じりの呟きをもらしつつ、私の横を通りすぎようとした課長の腕をはっしと掴む。

「か、課長!」

「どうした?」

「私、どこかに隠れた方がいいですよね!?」

 これだけの豪華な設備の部屋だから防音対策も万全だろうけど、念のため小声でまくし立てると、課長は意味がわからないように目を瞬かせた。

「え……、どうして?」

 どうしてって、あなた。

「だって、こんな時間に私と二人っきりで部屋にいたら、お客様に誤解されちゃいますよ!」

 ぱちぱちぱち、と。私の言葉の意味を咀嚼するようにゆっくり瞬きしたあと、課長は思いっきり噴出した。そのまま苦しそうに、お腹を押さえて笑っている。

「なんで笑うんですか? 変な誤解されてもいいんですか!」

「ほんっと、君といると、飽きないな」