電話は、フロントからの内線電話だったようだ。
「俺に、客……?」
昨夜は留守にしていたこと、今からまたすぐに出かけることなどを簡単に説明した課長は、相手の言葉に耳を傾けながら、訝しげに眉根を寄せた。
「今、フロントに来ているのか?」
どうやら、課長に来客があるらしい。
「風間――。ああ、間違いなく知り合いだ。わかった、部屋に通してくれ」
相手は、風間さんという課長の知人で、今から部屋に来る。と言うことは……。
「悪い、高橋さん。今から客が来るんで、病院は後回しになってしまうな……」
受話器を電話機に戻した課長は、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「大丈夫ですよ。今日は平日ですから、午後も普通に病院は、やってます」
「えーと。これ以上、君に迷惑をかけるわけにはいかないから、今日は、見合わせるってことで……」
明日になったら、『もう大分良くなった』とかなんとか言って、ぜったい行かないにきまってる。腐っても『元カノ』、そのくらいの行動パターンは、予想がつく。
「私なら気にしないでください。車の中ででも待ってますから。御用がすんだら来て下さい」
「いや……。それじゃ、申し訳ないから」
鼻の頭を人差し指でポリポリとかく課長の心底困ったような表情を見て、あることに思い至ってギクリとする。
もしかして、来訪者は『今カノ』、あの『ですわ』の婚約者候補嬢……とか?
なら、課長の困った様子も納得がいく。