だーかーらーっ。
そんな風に笑わないでって、昨夜も言ったでしょうが!
「し、心配しますよ、そりゃあ。大切な上司ですから!」
まさか、わざとやってるんじゃないでしょうね?
「大切な、上司――と、思ってもらえているわけか」
「もちろんです!」
以心伝心。
目は口ほどに物を言う。
嬉しそうに目元をほころばせる課長を見ていたら、なんだかこっちまで嬉しくなる。
ああ、私って、なんて単純。
いくら本人が『平気だから』と言っても、さすがに発熱中の病人を一人で部屋に戻すのは気が引けるので、一緒にお供をすることにした。
ホテル住まいって、どんな感じなんだろう? と、その生活ぶりに少し興味がわいてしまう。
昔、付き合っていた頃の彼の部屋は、モノトーンのシンプルなものだった。
女の自分から見れば味気なさを感じる色味の無いその部屋を始めて訪れたときの、新鮮な驚き。胸のトキメキ。
甘酸っぱい思い出が、鮮やかに蘇る。
今も、あんな感じなのだろうか?
でも、ホテルだから、『自分の好みに模様替え』というわけにはいかないか。
それにしても、そもそも、なんでホテル?
などと一人、とりとめもない脳内妄想に浸りながらエレベーターに乗り込んだとき、課長がおもむろに口を開いた。