以前、清栄建設のパーティが催された、あのホテルにもひけを取らない豪華版ホテルを呆然と見上げながら、いったい一泊いくらかかるんだろうかと、変な心配をしてしまう。
「課長、どうします? よければ、鍵を預かって私が保険証を取ってきましょうか?」
ぶつけることもなく無事駐車場に車を止め終えた後、私がそう申し出ると、課長は否と頭を振った。
「大丈夫だ、自分で行けるから。それほど重病じゃないよ……」
苦笑しつつ、それでもやはりかなりダルそうに課長はもたれていたシートから体を起こし、溜息めいた深い息を吐いた。
「課長、本当に大丈夫ですか? 顔色、悪いですよ?」
真面目に、青ざめた顔色をしている。
『ただの風邪だろうから、心配ない』と、最初は病院にいくのも渋っていた課長を無理やり引っ張ってきたのは私だ。
その判断は間違っていないと思う。でも、これはもしかしたら、保険証なんて後回しにして先に病院に向かうべきだったかもしれない。
もしも、大変な病気だったらどうしよう――。
自分の判断の甘さを今更ながら後悔し始めていたら、課長がクスリと口の端を上げた。
「課長?」
「相変わらず、心配性だな……」
ふっと零れる柔らかい笑顔に、鼓動が大きく跳ねあがる。