「ここの補強プレートの収まりなんだが、これで良いのかな?」
「えーと……、はい、これでOKです。でも、本当に初めてなんですか、加工図書かれるの。なんだか、もの凄く素人離れしているんですけど……」
『社長自ら系列会社から引き抜いてきた、有望株』。その『噂』しか聞いていない私は、谷田部課長が今までどんな仕事をしていたのか知らない。
だけど、なんにしろ図面を書く仕事に携わっていたのだろうと予想が付いた。
図面を書いたことがない人間に図面台と紙とシャープペンを渡しても、普通は線一本まともには書けない。
同じ太さで均一の綺麗な線を引くと言うのは簡単のようでいて実は以外と難しく、普通は、書き出しが太くなり後になるほど細くなってしまう。
かく言う私だって、真っ直ぐな綺麗な線が書けるまでには、並々ならぬ努力をしたのだ。
所がどっこい。
谷田部課長の華麗なるシャープペンさばきといったら、もう職人芸で、下手をしたら、この道一筋六年の私よりも巧いんじゃないかと思うほどだった。