泡を食って壁掛け時計に視線を走らせれば、なんと午前十時を回ったところ。一定なはずの秒針の動きがやけに早く感じる。

「あ……、み、美加ちゃん!」

 数瞬の自失の後、隣室で寝ている美加ちゃんを起こすべくふらりと立ちあがる。

 気持ちは逸るが、悲しいかな起き抜けの身体は気持ちに反比例して素早く動いてくれない。

 あううっ。会社に、なんて言い訳しよう。

 病人の課長とケガ人の美加ちゃんはともかく、問題はおまけの私。

 工務課課長以下、隣り合ったデスクの三人が仲良く無断欠勤なんて、前代未聞だ。

「美加ちゃん、ごめん! 寝坊しちゃっ――」 

 きちんと整えれれたベッドの中には誰もいない。

 と言うか、しんと静まり返った部屋の中には、人がいた気配そのものが感じられない。

「……あれ?」

 トイレにでも行ったの?

 たいして広くない我が城は、二間しかない。

 私と課長が寝ていた居間と美加ちゃんが寝ていた寝室。後、人が居られるスペースは、トイレとお風呂くらいだ。

 クルリと踵を返した私は居間へ戻り、トイレのドアを忙しなくノックした。

「美加ちゃん居る?」

「高橋さん……」

 美加ちゃんから応えはなく、代わりに背後から飛んできたのは、若干覇気のない課長の声だった。

 昨夜、あれだけの高熱を出したのだから無理もない。病人に余計な心配をかけたらだめだ。

 焦る気持ちを悟られないように、布団の上で疲れた様子であぐらをかいている課長に向かってニッコリ笑顔で口を開く。

「あ、課長は、もう少し休んでいてくださいね。今、何か食べやすいものを作りますから」

「佐藤さんは、一度自分のアパートに戻ってから、会社にいくそうだ」

「はい?」