「……あはは、珍しく驚いてるんですか?」

「ああ、驚いてる……」

 やったね。

 いつも驚かされてばっかりだから、たまにはこんなこともないと、不公平よね。

「うふふふふ」

 私はニンマリと頬の筋肉を緩めて、先輩の身体をギュッと抱きしめた。

 って、ん?

 なんでこんなに熱いんだ?

「先輩、熱でもあるんじゃ――」

 榊先輩?

 そこで、ぱちりと目が覚めた。

 と、同時に、ぎくりと身体がこわばった。

 おそるおそる視線を上げれば、同じように身体をこわばらせている人物と至近距離で視線がかちあった。

 私が抱きついているのは榊先輩じゃなく、谷田部課長。

 しばし呆然と見つめあった後、二人同時にあらぬ方へと目が泳ぐ。

 うわーっ、うわー、気まずいっ!

「す、すみませんっ。つい眠りこけちゃったみたいで、失礼しましたっ!」

 ばっと、課長の身体に回していた両腕を引き剥がし、自分の身体を引きを起こし布団から床に『しゅたっ!』と正座する。

 や、やばい、あのまま寝ちゃったんだ私。

「ね、熱はどうですか、課長?」

 ひきつり笑いで問うと、課長はゆっくりと半身を起こした。

「熱? あ、ああ。だいぶ楽にはなったが……」

 どうしてこんな状況になっているのか?

 腑に落ちない様子で、課長は、眉間を指先で揉みほぐしながら唸っている。

 さっき抱きついた時の感じからすると、夜ほどではないにしろ、まだ熱はありそうだ。

「それは、良かったです。でも今日は大事をとって、会社は休んで――」

 そこで、肝心なことにはたと気がつく。

 カーテン越しに差し込んでくる、外の日差しは明るい。

 朝というよりこれはむしろ、昼間?

「ええっ!?」

 ぎゃーっ、寝過ごした!?