「課長、熱が高いんですから冷やしましょ? 氷で冷やしたほうがもっと気持ちいいですよー?」

 極力優しく聞こえるように、努めて冷静に。

 がっちりと抱え込まれた身体の隙間に割り込ませたままの両手に、ギュムッと力を込め、その戒めをどうにか解こうと試みる。

 が、意識的なのか無意識なのか、私の首筋と背中に回された課長の両腕には、それを拒むように更に力が込められ、そればかりかフリーだった足にまで足が絡んできて、ホールドは強化。

 ますます身動きがとれなくなってしまった。

 ううっ。

 だーかーらー。

 私は、抱き枕じゃないっつうの。

「冷たすぎるのは、好きじゃない……から、こっちがいい……」

 ワンテンポ遅れてぼそりと落とされた抑揚のない声音からすると、半分は夢の世界にいる様子だが、ちゃんと意識はあるらしい。

「課長~~、苦しいから放してください」

 意識があるならと、今度は、情けない声で情に訴える作戦に出てみる。

「うん……苦しい……」

 って、そりゃそれだけ熱があったら苦しいでしょうけど、放してくれないことには看病できないんですけど……。

 寝不足プラス、アルコールの入った私の脳細胞では、次善策は何も浮かばない。

「……はあっ……」

 特大の溜息とともに、私は全身の力をすうっと抜いた。

 無駄な抵抗はあきらめよう。

 いい加減、力を入れっぱなしの両腕も疲れたし、病人にいらぬ体力を使わせるのも気が引ける。