反応に困って身をこわばらせていたら、またまた身体が引き寄せられ、今度は、首筋に唇が寄せられた。

 ちゅっ、と上がるリップ音に、頬が上気する。

 こ、こらっ、なにするのよ、このセクハラ上司っ!

「か、課長っ、お忘れでしょうけど、隣の部屋には美加ちゃんが寝ているんですからねっ。大声出して呼びますよっ?」

 クスクスクス。

 苦し紛れの脅し文句もなんのその。

 脱走中の課長の理性は戻ってくる気配もなく、更に事態は悪化の一途をたどった。

「……気持ちいい」

「えっ!?」

 首筋に顔を埋められたこの状態で聞くには心臓に悪すぎるため息混じりのセリフに、ぎょっと目を見張る。

 そ、そんな気持ちよさそうな声で、気持ちいいって言われても。

 え、えーと。えーと。えーと。

 どう反応すれば、いいんだろう?

 ああダメだ、私の理性まで、ぶっ飛びそう。

 たらーりたらーりと、全身に変な汗をかいて静かに悶絶していたら再び耳元に囁きが落とされ、今度は別の意味で固まった。

「冷たくて、気持ちいい……」

――って、そっちの『気持ちいい』か!

 危ない方向に思考が向いていたのは、私の方らしい。

 この人は、病人だ。

 高い熱があるのだから、熱いのは当たり前。

 他人の通常体温でさえ、ヒンヤリと感じられるのだろう。

 そうだ、冷やさなきゃ。

 看病という本分を思い出した私は、逃げ出しかけた自分の理性を引きとどめるために、すうと一つ大きく息を吸い込んだ。