強引に引き寄せられた身体は抵抗する暇もなく、引き寄せた主の腕の中に簡単に捕らわれてしまった。

 抱え込まれた背中と首筋に走るのは、大きな手のひらから伝う熱と、痛みを感じる限度スレスレに込められた強い指先の感触。

 激しく拍動しているのは、私の首筋?

 それとも、課長の手のひら?

「か、課長……」

 不意打ちの行動に驚きで開きかけた唇が、更に熱を帯びた柔らかい感触で塞がれた。

 な、何を――!

「谷田部、課……っ」

 逃れるように引いた僅かな唇の隙間を厭うように、首筋に絡んだ指先に力が込められ引き寄せられる。

 再び与えられる感触に思わずギュッと目を瞑った。

 先刻の、ふわりと触れるだけのものではない、感情をぶつけてくるような深い口づけに、思考が漂白される。

 抗えない。

 文字通り、熱に浮かされたような一方的な行為なのに、抗うことができない。

 ――ばかっ。

 何を、やってるのよ?

 さっき、『最高じゃなくてもいい、最良の部下でありたい』って誓ったばかりじゃないの!

 なのに、その舌の根も乾かないうちに、これなの?

 驚き戸惑いながらも、私はこの瞬間を『幸せだ』と感じてしまっている。

 ったく。

 相手は、思考回路崩壊中の病人。

 あんたがしっかりしないで、どうするのよ?

 僅かに残った理性をフル稼働させて自分に喝を入れ、私は鼻腔から大きく息を吸い込むと、思いっきり口から吹き出した。