意識がはっきりしないこの状態で直接ペットボトルから水分補給は、かなり難しいだろう。

 いくら何でも揃うコンビニでも病人用の吸い飲みなんてあるはずないし、自力で吸うことが出来なければ、ストローも意味がなさそうだし……。

「課長……」

 ますます熱が上がってきたのか、はっきりと赤味を帯びてきた苦しそうなその顔をじっと見つめる。

 ええい、こうなりゃ、残るは非常手段。

 苦しそうな上司さまを救うためであって、けっして、やましい事はありません。

 と、心の中で言い訳をして、ペットボトルのスポーツ飲料を口に含む。

 そして、そのまま眠る課長の口に自分の口を押し当てた。

「……う……ん……」

 突然、唇に与えられる圧力を感じてか、わずらわしそうに首を振ろうとするその顔を逃げられないように両手で固定し、そのまま口の中の液体を息を吹き込むように流し込む。

 治まりきらない分量が口の両端を伝って滴り落ち、課長の顔に添えた私の両手を濡らしていく。

 でも。

 コクリ――と、僅かながら、課長は確かに流し込まれたスポーツ飲料を嚥下した。

 それは、物理的な水分補給作業。

『キス』、なんて、色気のあるものじゃない。

 内心、早くなる鼓動はこの際無視して、そう自分に言い聞かせ、二度三度と同じ動作を繰り返す。

 このくらいで大丈夫かな?

 これでひとまず終わりにしようと考えつつ、繰り返した四度目が終わり、唇が離れようとしたそのときだった。

「……え?」

 ふいに首筋が熱い感触に覆われ、それが課長の手のひらだと理解する間もなく、離れかけた身体はぐいっと引き戻された。