『恋愛』っていうのは、治りきらない風邪に似ている。
いつまでも心の奥底にくすぶって、何でもないようなことに過剰反応しては、ドキドキと鼓動を早めて主を苦しめる。
それに更に拍車をかけるのは――。
「高橋さん、ちょっといいかな?」
この声だ。
同じ職場で、それもしばらくの間とはいえ『補佐役』なんて四六時中くっついて行動しなきゃならない立場にいて、声が耳に入るたびドキドキしてたんじゃ、とても身が持たない。
そうは思うけど。
名前なんて呼ばれた日には、変な汗が背中に流れたりなんかして。
もう、重傷だ……。
「は、はい、何ですか課長?」
今日の課長は、なんと図面書きに挑戦なさっている。
大きなビル工事なんかのある程度画一化されている単純な加工図は、通常はコンピューターで作図してしまう。
でも、小規模の細かい書き込みが必要な工事の図面は、昔ながらの『図面台』を使って手作業で書いていく。その方が、だんぜん効率が良いから。
今、私は三つほど工事を担当していて、そのうちの一つが少しばかり凝った建物で、その凝った部分の図面を、課長自ら書いてみたいと言いだしたのだ。
『加工図面の類は書いたことがない』、そう言っていたから期待はしていなかったんだけど、蓋を開けてビックリした。