「うっ!」

「あっ!」

 私と美加ちゃんは、意味のなさない似たような、それでいて大分成分の異なった驚きを意味する言葉を発した。

 なにせ、私は仰向けに横たわる課長に馬乗り状態で跨っていて、その上、額と額をくっつけて熱を測っていたのだ。

 どうひいき目に見ても『OL・深夜に寝込んだ上司を襲うの図』にしか見えない。

『沈黙はすべてを語る』

 案の定、美加ちゃんも、『そう』取ったらしい。

 その表情は、目と口と鼻の穴をアルファベットの『O』の形にして、驚きに彩られている。

 でもそれは、瞬時に訳知り顔の喜色満面の笑みが取って代わり。

 美加ちゃんはその笑みを顔に貼り付けたまま、DKに踏み出していた足を音も無く引っ込めると、何事もなかったかのようにパタリと引き戸を閉めてしまった。

「み、美加ちゃん!」

 違う、違う、違うよっ!

「ちょ、ちょっと待って美加ちゃんっ! 誤解だからっ!」

 慌てて立ち上がり、寝室の方へふらりと歩み寄る。

 本当はツカツカと駆け寄りたい心境だったけど、お酒が入っているせいか、身体が言うことを聞いてくれないのだ。

「美加ちゃんっ」

「あたしは、まだ眠ってます。だから、何も見てませんよ?」

「美加ちゃん、いいから先にトイレに行きなさいっ!」

 あまりの恥ずかしさ加減に、私の声も裏返る。

「ちぇっ――。あたしって、間が悪いなぁ……」

 さすがに、生理現象には逆らえないのか、美加ちゃんは、ばつが悪そうに部屋に入って来た。