「や、やだ!」

 これじゃまるで、『OL・深夜に寝込んだ上司を襲うの図』にしか見えない。

 慌てて床に付いた両手に力を込めて立ち上がろうとした、その指先が投げ出された課長の指先に触れ、ドキリと鼓動が跳ねた。

 指に触れたことにではなく、そこに宿る違和感に眉根をよせる。

 先刻はひんやりと冷たく感じた課長の指先が、やたらと温かい。

 否、それは既に『熱い』と言える領域で、明らかに人間の通常体温を遥かに超えている。

「え――?」

 ちょ、ちょっと!?

 ギョッとして課長の顔を覗き込むと、良く見ればいつもよりも顔色が赤いような気がする。

 酔っ払って、顔が赤くなるタイプじゃないから、これは確実に他に原因がある。

 心なしか、息も、浅くて速いような気がする。

 そう言えば、抱きしめられたときも、やたらと熱く感じた。

 普段からは考えられないような課長の異常行動。

 お酒に酔ったせいじゃないとしたら?

「か、課長!?」

 泡を食って右手を課長の額に伸ばして見れば、案の定、チリチリと感じるほど熱くなっている。

 念のため、額に額をくっつけて再度確認をしてみても、間違いなく熱い。熱すぎる。

 やだ、風邪!?

 それとも、他の病気!?

「と、とにかく、冷やさなきゃ!」

 と、パニクりながら、課長の額にくっけていた自分の額を浮かしかけたその時だった。

 ガラリ――と背後で隣の寝室の引き戸が開く音が上がり。

「ふわぁ~っ。先輩おトイレかして……」と眠たそうな美加ちゃんの声が聞こえて、私は全身をピキリとこわばらせる。

 そして。

 恐る恐る振り返れば、これまた同じく、DKに一歩足を踏み入れた体制のまま全身をピキリとこわばらせた、美加ちゃんの姿があった。