どのくらいの時間そうしていただろうか。

 背に回されていた両腕の戒めがふっと緩み、私はハッとして、伏せていた課長の胸元から顔を上げた。

 どこか自嘲気味な笑みを浮かべたその表情には、疲労の影が色濃く浮かんでいる。

「因果応報ってやつだな……」

「え……?」

 因果応報?

「自分で手放しておきながら今更欲しがるなんて、まるでオモチャを取り上げられた子供みたいで、我ながら嫌になる」

 切なげに眇められた瞳に視線がつかまり、ドキリと、鼓動が大きく跳ね上がった。

 背に回された左手に再び力が込められ、外された右手が首筋から頬へと、そっと稜線を辿る。

 熱い頬を、少し冷たく感じる繊細で長い指先が優しく撫でていく。その感覚に、更に頬が上気した。

「か、課長っ……」

 全身に帯びた熱に耐え切れず思わず名を呼ぶと、それを遮るみたいに『しぃっ』っと長い指先が私の口に当てられた。

「今は、課長はナシ」

「ナ、ナシって言われてもっ」

 んじゃ、なんて呼べはいいのよ、いったい。

「梓……」

 至近距離で名前を囁かれて、再び鼓動は暴走開始。

 もう、何が何だかわからない。

 いったい、どうしちゃったの、この人!?