「かっ……!」
課長!
私の左手を引っ張り自分の方に引き倒し、身体ごとがっちりその懐に抱え込み寝転んでいる犯人様の名を呼ぼうとしたとたん。
その口は、体を更に引き寄せられたせいで、『パフン』とワイシャツ生地に塞がれてしまった。
再び嗅覚を直撃する、コロンとタバコの匂い。
そして、薄布越しに伝わるやけに熱く感じる体温。
まるで全身が心臓化したみたいに、鼓動が加速して大きくなっていく。
な、な、な、なにっ!?
何が、どうしたのっ!?
身体は硬直状態で、一気に眠気の吹っ飛んだ脳細胞はパニック寸前。
疑問符が、徒党を組んで怒涛のように駆け抜けていく。
「課長っ、どう――」
「すまない……」
再び口に出しかけた言葉は、今度は柔らかい布地ではなく低音の声によって遮られた。
「もう少しだけ。もう少しだけでいいから、こうしていてくれないか?」
微かに震えを帯びたその声音に、見え隠れするのは、大きな感情のうねり。
ただの酒の勢いで走った行動ではない気がして、暴走していた鼓動が、熱が引くみたいに『すうっ』と静まっていく。
もしかして、プライベートで、何かあったのだろうか?
普段の課長からは考えられない、こんな行動に走らせてしまうほどの、私の知らない何かが。
知りたい、と、切実に思った。
好奇心からではなく、たとえばそれが辛いことなら、分かち合いたい。
力にはなれなくても、話を聞くだけしかできなくても、それでも少しでもこの人の役に立ちたいと、そう思った。
でも、その願いを口にする勇気はなく、私は何も言葉を発せずに、ただそのままじっとしていることしかできない。