「もう、こんな時間ですね」

 壁掛け時計の針は二時半を回っている。いくらなんでも、寝ないと明日に差し障ってしまう。

 美加ちゃんは休ませるにしても、課長と私は、そうはいかない。

『二人仲良く寝不足顔で遅刻』なんてことになったら、噂好きな女子社員の間で、どんな尾ひれが付いて話が広まるか、分かったものじゃない。

 可愛いメダカ並の尾ひれが、瞬く間にシーラカンス並に進化する様が、ありありと目に浮かぶ。その渦中に立たされる課長と自分の姿を、チラリと想像しただけでも……。

――笑えない。

 かなり高確率で当たるはずの予想なだけに、笑えない。

 そんな困ったことにならないためにも、ここは、さっさと寝るに限る。

「テーブルの脇に布団を敷きますから、課長は、そこで寝てもらえますか?」

「――ああ。手間をかけるな」

 もしかしたら、代行で帰ると言い出すかと心配したけど、さすがに課長もお疲れモードなのだろう。

 素直に頷いてくれたので、ほっとする。

 DKで寝かせるのは気が引けるけど、他に布団を敷ける場所がないからこの際我慢していただこう。

 客用の布団は母が来た時のためにと一組しか用意していないから、とにかく課長にはそれを使って貰って、私は適当にタオルケットでも掛けて、美香ちゃんの隣の床でごろ寝でもしよう。

 そう算段を付けて布団を敷き終わった所で、「もう少し、飲まないか?」と、課長が誘いをかけてきた。