DKでは、すっかりくつろぎモードの谷田部課長が一人、コタツテーブルの上に広がったおつまみ群の中から柿ピーを拾い出し、ポリポリとかじっていた。
そういえば付き合っていた当初も、ビールのツマミと言えば柿ピーとイカの燻製が定番だった。
飲めない私が好物のピーナッツを選り分けて、いざ『さあ食べよう』とルンルン気分で口に運ぼうとした所をすかさず横取りされ、二人でピーナッツ争奪戦を繰り広げたこともあったっけ。
他愛無いことでケンカして、じゃれ合って。
その一つ一つが、煌いていた、あの頃。
ふっと、記憶の中と目の前の情景が重なり、胸の奥に甘い痛みを伴った想いの欠片が去来する。
――だめだめ!
しっかりしなよ、梓。
気持ちまで純粋だったあの頃にシンクロしそうになり、自分を戒めるようにぎゅっと目を瞑った。
それにしても。
いつもなら自分一人しかいない空間に、他人が居ると言うのは、とても不思議な気分だ。
それも、心密かに思い続けている相手が自分の生活エリアに当たり前のように存在しているその光景は、不思議と言うか、実にこそばゆい。