「いいえ。買い出し、ありがとうございます。さあどうぞ、狭い所ですけど上がって下さい」

 って、課長はもう知っているんだっけ。

「いや、俺は、ここで失礼するよ。さすがにこんな時間に、部下とは言え独身女性の部屋へ上がらせてもらう訳にはいかないから」

 どこぞで聞いたセリフを口にして、課長は少し苦笑気味に口の端を上げた。

『どこぞで聞いた』とはもちろん、例の週末パーティの後に『夕飯を相伴させてくれ』と粘る課長に私が言ったセリフだ。

 意外に、気にしてくれているのだろうか?

 だとしたら、何だか嬉しいような気恥ずかしいような。

「何言ってるんですか? もう課長の分も食事の用意、出来てますよ? 食べて頂かないと、こちらが困ってしまいます。それに欠食部下が約一名、お腹を空かせて待ちかねていますから、お早くどうぞ」

 そう言う側から、

「課長ー、早く食べましょうよー。お腹空きすぎて、ヒモジイですよぉ……」と、美加ちゃんの心底ヒモジそうな情けない声が背後から飛んで来て、課長と二人顔を見合わせて、思わずクスリと笑い合う。

 悪びれないと言うか得な性格と言うか、本当に憎めない娘(こ)だ。

「ほら課長、遠慮はナシでどうぞ上がって下さい」

 手を伸ばして、課長の手からぶら下がっているビニール袋を一つ取り上げて、さあさあどうぞともう一度促す。

「それじゃ、遠慮なく」

「はい、どうぞ」