「……別に良いけど、美加ちゃん?」
「はい?」
「あなたは、お酒飲んじゃ駄目よ?」
「えー、なんでですかぁ?」
「鎮痛剤と化膿止め飲んでる人は、お酒は飲めません。ついでに、運転して帰らなきゃいけない課長にも、飲ませるわけにはいきません」
「えー、そんなの、つまらないじゃないですか!」
「と言うことで、何の障害もない部屋主の『私だけ』、美味しく酒盛りさせていただきます」
「えー、えー、ずるい先輩!」
かくして、三十分後。
谷田部課長は、例のご近所のコンビニの白いビニール袋を二つぶら下げて、我が部屋を来訪なさった。
さすがに常識人の課長は真夜中に玄関のチャイムを押すことはなく、駐車場から「着いたので今から伺います。部屋の前まで行ったらノックしますから開けて下さい」と私のスマートフォンに連絡を入れてきた。
こんな気配りができる常識を持ち合わせた人がどうして、美加ちゃんの無謀ともいえる誘いにホイホイと乗ってきたのか、そこが不思議だ。
だから、いざ玄関のドアを開けた瞬間。
「こんばんは。その、こんな夜分に申し訳ない……」
と、てんこ盛りの白いビニール袋を二つ両手にぶら下げて、所在なさ気に佇んでいる課長の何とも形容しがたい神妙な顔を見て、思わず笑ってしまった。