冷や汗をかく場面はあったものの、原寸検査はなんとか無事終了した。
設計士と監督を再び駅に送り届けひと息付けたのは、もう午後の三時を回っていた。
「お疲れさまでした、課長。お腹空かれたでしょう? 急なことでお弁当まで手が回らず、すみませんでした。何処かに寄って、何か食べていきましょうか?」
駅から会社への帰り道。
私は車を走らせながら、今朝と同じように無言で車の助手席に座っている谷田部課長に、話を振った。
もちろん、お客様達のお昼は準備していたけど、まさか課長の飛び入りまでは想定外。お客様が居るのに、それを放って買い出しに行けるはずもなく。
もう少し早く気づけば出前をとることも出来たけれど、間抜けなことに昼食の準備に入るまで、そのことに気付かなかったのだ。
我ながら、なんて段取りの悪さだろうと思わずにいられない。
私の分のお弁当をどうぞと課長に勧めてみたものの、受け取っては貰えず。
結果。第一工場には、手の付けられなかったお弁当が一つと、空きっ腹の上司と部下が残されることになった。