やっぱり課長の声は電話越しだと耳元で聞こえるせいか、いつもより低く感じる。
安心できる、良い声だなぁ……。
――と、一人ささやかな幸せに浸りながら、「おやすみなさい」と返事をしようとしたその時。
「あ! 先輩、もしかして谷田部課長からですか?」
ガラリ、と引き戸を開ける音と共に美加ちゃんの声が背後から飛んできて、ビクリと体をすくませた。
み、み、見られた……?
『スマートフォンを耳に当ててうっとりしている自分の図』を思い浮かべて、たらーりたらーりと嫌な汗が背中を伝い落ちる。
「あ、うん。谷田部課長だけど、美加ちゃんも出てみる?」
あはははと、内心の動揺を引きつり笑いでごまかして問うと、美加ちゃんは「はい。かわって下さい」と微笑んだ。
「あ、課長。今、美加ちゃんとかわりますね」
電話の向こうの谷田部課長に断りを入れてスマートフォンを差し出すと、美加ちゃんは更にニッコリと笑みを深めて受け取った。
「あ、谷田部課長。今日は、本当にありがとうございました」
ああ、ちょっとは元気になったみたいで、良かった……。
ホッと胸を撫で下ろす。