厳しく言ったって、どんな風に言ったのだろうか?

 興味がフツフツと湧いてきたけど、さすがに詳しく聞く勇気はない。

『それと……』

「はい?」

『君には、だいぶきつい事を言ってしまって、申し訳なかった』

「いいえ、あの時は私も頭に血が上ってしまって、すみませんでした。私の方は、ぜんぜん気にしていませんから、課長もお気遣いなく」

『そうか。なら、良いんだが……』

 ふっと、優しい沈黙が落ちた。

 電話と言う媒体を通しての、二人だけの空間。

 このままこうして浸っていたい気もするけど、時間も時間だからそうもいかない。

「課長、今日は、色々とありがとうございました」

『いや、それはこちらのセリフだよ。君が居てくれたおかげで助かった。佐藤さんもだいぶ気が休まるだろう』

 そうかな?

 そうだと、良いけど。

『今日は君も疲れただろうから、ゆっくりと休んで……』

 濁された言葉の続きを待っていたら、電話の向こう側で課長がクスリと笑う気配がした。

「課長?」

 時々あるんだよね。こう言う瞬間。

 笑われるようなことをした覚えはないのに、なぜかクスリと笑われる。

 うーっ。気になって仕方がない。

 はっきり言ってくれた方が、すっきりするのに。

 でも、電話の向こうから答えは届かず。

『いや、何でもない。それじゃ、おやすみ』

 惚れた欲目か、大いなる勘違いか。

 いつもより優しいトーンの声が、心地好く耳に響いた。