「君の気持ちは、良く分かった。悪いようにはしないから後の事は任せて、君はケガを治す事だけを考えなさい。いいね?」
ポロポロと再び涙腺が崩壊してしまった美加ちゃんの顔を優しい眼差しで見つめながら課長はそう言うと、足早に自分の車に乗り込み、大木鉄工へと向かって行った。
「課長、一人で、大丈夫……でしょうか?」
スン――、っと、鼻をすすりながら美加ちゃんは、課長の車が走り去った方角へ、心配そうな眼差しを向けた。
一度は、美加ちゃんに暴力を振るった人物の元へ行く。
私だって、不安が無いわけじゃない。
でも、あの人なら、きっと。
「――大丈夫よ。心配ないわ」
私は、自分に言い聞かせるように、はっきりとした口調で言った。
「はい……」
頷きながらも、尚も不安が拭えないように目を眇める美加ちゃんに、ニコリと笑みを向ける。
課長の言う通り、今は、美加ちゃんのケガを治すことが一番の優先事項だ。
他の事は、後からゆっくりと考えればいい。
課長は課長の責務を果たしに向かっているんだから、私も、自分のやるべきことをやろう。
よし!
心で自分を鼓舞し、私は、車のエンジンをスタートさせた。
「我が工務課の課長様は、鉄壁の営業スマイルと鉄の心臓を持っているから、ちょっとやそっとじゃやられたりしないわよ。さて、私たちはまず病院へGOね。じゃ美加ちゃん、シートベルトしてね」
笑いかけると、美加ちゃんは微かに口の端を上げてコクリと頷いた。
いつもの元気な笑顔からは程遠いその表情が、少しでも早く元に戻りますように。
そう願わずにはいられなかった。