「酷な言いようだけど、俺も高橋さんも君の手助けはできても、その立場を変わってあげることはできないんだ。だから君自身に決めて欲しい。君が決めたことならば、俺は工務課の課長として出来る限り全面的にバックアップをする」
終始一貫。最初と変わらぬ穏やかなトーンの声が、閑散とした静かな駐車場の薄闇の中に、溶けるように吸い込まれていく。
落ちる沈黙の深さは、まるで、美加ちゃんの心の痛みの深さのように思えた。
答えを急かすことなくそのままの姿勢で待っている課長の顔を、美加ちゃんは真っ直ぐに見据えて、彼女の出した答えを告げた。
「警察には届けません。でも……許すこともできませんっ」
つうっと、一筋の涙が、美加ちゃんの滑らかな白い頬を伝って零れ落ちる。その光景を、私は言葉もなく見つめていた。
分かっている。
課長の言うことは、正論だ。
たぶん、美加ちゃんにとって、美加ちゃんの今後にとって、一番ダメージの少ない方法を提示してくれたのだろう。
でも。
頭で理解できることと、心で納得できることの間には、大きな隔たりがある――。