「ねぇ、ねぇ、 梓センパイ! 耳より情報仕入れましたよ~」
忙しない朝のロッカールームで、いつものごとくいつものように。
濃紺のベストにひざ丈のボックススカートという色気の欠片もない制服に着替えていたら、同じ工務課の美加ちゃんが、語尾に音符マークが付いていそうなご機嫌ボイスで声を掛けてきた。
大学を卒業してから六年間、私、高橋梓が勤めているこの太陽工業は、県下一の規模を誇る鉄骨建築の会社だ。
簡単に言うなら県で一番大きな『鉄工所』。
私が所属しているのは『工務課』といって、設計図から加工図をおこす仕事をしている。
設計士の『先生』が書いた設計図から、実際工場で製品が加工出来るように。例えば、柱の一本一本の図面を書き、そこに必要な加工や寸法を書き入れていく。
通称『図面屋さん』だ。
美加ちゃん。佐藤美加は、私より五つ年下の二十三歳。我が太陽工業で、私と同じ工務課所属の、まあ、仲の良い後輩。
綺麗に巻いたふわふわカールの色素の薄いセミロングの髪と、今の流行を押さえたバッチリメイクの可愛い系OL。
黒縁メガネで引っ詰め髪。おまけに化粧は、ファンデーションと口紅だけを辛うじて付けている程度の地味ぃな私とは、見た目も性格もまったく正反対。
噂好きで何よりも先に口が動くことを除けば、気さくで明るいとてもいい娘だ。
どちらかと言うと人付き合いがあまり得意じゃない私にとっては、その明るさと屈託の無さが時に眩しく感じたりする。
ある種の『憧れ』があるのかも知れない。