引きちぎられたようなブラウスの胸元が脳裏をチラつき、浮かんだ嫌な予感を唇を噛んで追い出そうとした。

 抱きしめていた美加ちゃんから体を離し、顔を覗き込んで口の端を上げる。

「とにかく、ケガの手当てをしようか? あ、課長、コンビニで、消毒薬と、ガーゼ。あと紙テープか包帯があれば、買ってきてもらえますか?」

「分かった」

 頷きスッと身を引くと、課長は、コンビニへと足を向けた。

「ねえ、美加ちゃん。話したくないなら、無理にとは言わないけど。良かったら、……何があったのか、教えてくれるかな?」

 ためらうような、沈黙の後。

「社長がっ……」

 絞り出された呟きが、私の脳裏にずんぐりと背の低い父親世代の大人しい男性の姿を思い起こさせた。

「社長? 社長って、大木鉄工の、社長さんのこと?」

 こくん――と、美加ちゃんは頷いた。

 人当たりが良くて大人しい感じの人だけど、あの人がどうしたっていうの?

 胸の奥に、モヤモヤとしたどす黒い暗雲が垂れ込める。

「社長さんが、どうしたの?」

「……図面を届けに行ったら、なんだか、奥さんが留守で社長一人しかいなくてっ……」

 社長が、一人だけ?

 漠然とした不安が、一つの形を作り始めて行く。

「最初は、普通に図面の打ち合わせをして……でも、急にっ……」

 美加ちゃんは少しずつ、事の成り行きを話し始めた。