「佐藤さん谷田部だ。救急車を呼ぶかい?」
『え……? そんな、大丈夫ですっ。全然、平気ですっ……』
「わかった。今どこにいるか言えるかい?」
ひくひくっとしゃくり上げる音の後に、美加ちゃんは再び口を開いた。
『……大木鉄工から国道に出てすぐっ……の所のある、コンビニの、駐車場ですっ……』
「コンビニの人に、来てもらうかい?」
『……いいえっ、いいですっ』
「わかった。今から高橋さんと二人ですぐに向うから、そこから動かないように。良いね? 何かあったら、すぐにこのスマホに電話をするんだよ」
『はい……っ。分かりまし……た』
プツン――と、電話が切られても、私はすぐには動くことが出来なかった。
『夜の電話は凶報を運んでくる』
それは、風化することのない忌まわしい恐怖の記憶。ある日突然、一本の電話によってもたらされた父の死。
世の中には、信じられないような理不尽なことが起こり得るのだと、身をもって知った十四年前の中学二年生の冬。
あの時の記憶がフラッシュバックして、体はまるで金縛り状態で、強張ったまま。
――情けない。
いつも美加ちゃんには励まされているのに。
たくさん、元気を貰っているのに。
こんな肝心な時に、電話の応対すらまともにしてあげられないなんて。
情けない――。
どうか、どうか、酷いケガではありませんように。
取るものも取りあえず。とにかく、免許証と財布入りのバッグを引っ掴み。
課長が出してくれた車の助手席に座り、私はスマートフォンを握りしめて、ひたすら美加ちゃんの無事を祈っていた。
夜の街の灯が、飛び去るように流れて行く。
「何があったんでしょう? あんな美加ちゃん、初めてで……」
いつも元気で、茶目っ気たっぷりで。
そう言えば、泣き顔なんて見たことがなかった。
「……ともかく、急ごう。実際会って話を聞いてみなければ、何があったのかと気をもんだ所でどうしようもない」
「はい……」