『先輩、すみま……せんっ。ちょっと、どじっ……ちゃいました』
口調はいつものように明るくしようとしているけど、明らかに涙声の美加ちゃんの言葉に、嫌な予感はますます膨れ上がっていく。
でもこういう時、こちらが慌てたらいけない。そう自分に言い聞かせて、「どうしたの? 何か、あった?」
問い詰めたいのをぐっとこらえて、内心の動揺が出てしまわないように、勤めてゆっくり問いかける。
『あの……、少しケガしちゃってっ……。で、その、コンビニで消毒液と絆創膏を買おうと思ったんですけどっ、なんか思ったより、酷い格好で……』
その言葉を耳にした瞬間、血の気が一気に引いた。
――ゲガ、流血、酷い格好!?
「ケガっていったいどうしたの!? 今、どこにいるの美加ちゃん!」
落ち着こうなんて理性は綺麗さっぱりとすっ飛んで、思わず早口でまくし立ててしまった。
『あ、やだなぁ……っ。大したこと、ないんです……うっ。本当、かすり傷でっ……』
って、しゃくり上げながら、何言ってるのっ!?
これは、ただ事じゃない。
少なくとも美加ちゃんは、出血を伴うケガをしていて、泣いている。私に救いを求めている。じゃなければ、電話などしてこない。
電話でSOSを発しておきながら、すぐに助けに来てくれと言えない美加ちゃんの混乱ぶりに、背筋の悪寒がますます酷くなっていく。
「美加ちゃん!」
今どこにいるのか聞き出そうと気があせり思わず声を荒げようとしたところで、課長にスマートフォンをひょいっと取り上げられてしまった。
「課長!?」
任せなさい、と言うようにゆっくり頷くと、課長は電話を外部スピーカー設定に切り替えて耳に当てた。