美加ちゃんだ。

 何か、図面で分からない事でもあったのだろうか?

 とにかく通話ボタンを押して、耳に当てる。

 でも――。

「もしもし、美加ちゃん?」

 呼びかけてみても、反応がない。

――あれ? 切れているのかな? それとも電波障害?

 スマートフォンの画面を確認してもアンテナは綺麗に立っているから、少なくとも電波障害ではなさそうだ。

「もしもし? もしもし、美加ちゃん、聞こえる?」

 私の様子を不審に思ったのか、「どうした?」と、課長が席を立って、歩み寄ってくる。

「あ、美加ちゃんからなんですけど、なんだか、電波が悪いのか良く聞こえなくて……」

 訝しげな表情の課長と目配せし合ったその時。

「……パ……イ」

 微かな声が、耳に届いた。

 喉の奥から絞り出すような、まるで泣いているみたいな掠れた声音に、ドキリと背筋に戦慄が走る。

「美加ちゃん? ごめん、良く聞こえないの。もう一度言ってもらえる?」

「梓……セン……っ」

 電波障害なんかじゃない。

 間違いない。

 美加ちゃんは、電話の向こう側で、泣いている。