「佐藤さんは、若いのに仕事熱心な娘だな」
スピード重視の食事が終わり、冷めかけたお茶をすすりながら課長が感心したように呟いた。
この呟きの聞こえる範囲内に他の社員はいないから、おのずと私に向けられた言葉だった。
「そうですよ。私が退職したら、彼女がシングル筆頭の古株ですからね。頼もしい限りですよ」
「……それは、退職する予定があると言うことなのか?」
――え?
何気なく放った他愛もない言葉に対して思いもかけず課長から真剣な声音で質問が返ってきて、ドキリと鼓動が高鳴った。
恐る恐る質問主が座る課長席に視線を向ければ、そこにあるのは至極真面目な顔をした谷田部課長。
声も真剣なら、その表情も真剣そのもの。いつものニコニコスマイルは何処かへ影を潜めている。
――え? これはもしかして課長、何か誤解をしている?
その、あの、私が『寿退社』をするとか思ったり……してないよね?
「もしも、もしもの話です。別に退職する予定はありませんよ、今の所」
「そうか……。なら良いんだが。今君に辞められたら、フォローしきれないからな。もしもそう言う予定が決まった時は早めに伝えてくれ」