「課長、先輩。あたしは大木鉄工に完成図面を届けて、そのまま直帰しますんで、お先に上がりますねー」
大木鉄工は美加ちゃんの担当工事の下請け会社で、会社から車でも一時間半はかかる場所にある。
社長と奥様、そして社長の弟の職人さんの総勢三名の個人会社。自宅の隣りに工場があるので、今の時間帯に尋ねても、応対してくれるのがありがたい。
工期に余裕がある工事ならば、『図面を宅配で送って後日に電話で打ち合わせ』と言う形を取る事もできるけど、今回は大分締切りが押していて一日でも早く加工に入りたいのだ。
今夜のうちに図面を手渡せば、明日の朝一で、材料の裁断加工に入れる。締切に追われている時の一日は大きく、後でモノを言う。
『締切厳守』が、この業界の大原則。
鉄骨を組み上げるその当日に製品加工が間に合わなければ、計り知れない信用喪失と大きな金銭的損害を被る。信用を失えば次の工事受注は無いかも知れないのだ。
だから、自然とスケジュールは前倒しに余裕を持って進めるのが通例だった。
「ご苦労様。車が込む時間帯だから、気を付けて」
本日のメインディシュッの和風魚定食を自分のデスクに置いた課長が、いつものニコニコスマイルで応じる。