毎日繰り返される結構ハードな業務内容に、若い女の子が多い事もあって、この課から他の一般事務職に移動願いを出す社員もいることはいた。
それでも、多くの社員が多少の愚痴をこぼしつつも、このハードな仕事をこなしているのには、それなりの理由がある。
なにせ、仕事のメインでもある加工図面書きは、それこそ一本の線を書くところから始まり、嫌になるくらい練習を重ね。
寸法の出し方から材料の取り方及び発注まで、その一つ一つを自分で体験して、失敗を重ねて身に付けてきた正に経験がものを言うお仕事。
人間、自分が苦労をして積み重ねて得たスキルを、そう簡単には手放せない。
それに、なにより、自分が担当した建物が完成した姿を実際目にした時の、あの感動。
自分がその一端を担ってこの建物を作り上げたのだと言う、誇りと達成感。
あんな気持ちを一度でも味わったら、もういけない。
どんなに面倒くさい図面でも、残業続きでも、『よし! 書いてやろうじゃない』と言う闘志が、フツフツとわいてくる。
自分はこの仕事に出会えて幸運だったなぁと、しみじみ感じ入りながら、届いた店屋物とセルフサービスのお茶をデスクに持ち帰り、さて今日のメニューのオムライスを食べよう! と『いただきます』をした所で、帰り支度をしていた美加ちゃんが声をかけてきた。