「でも、手を伸ばすのをウダウダと迷って、チャンスが通り過ぎてから掴もうとすると――」

 わかります? って小首を傾げる美加ちゃんの続きの言葉を、私は声にしてみた。

「『後ろ髪が禿げ上がっている』から、つるつる滑って掴めない?」

「ピンポーン!」

「上手いこと言うわね」

 本当に関心していたら、「あたしも他人からの受け売りです。エッヘン!」と、美加ちゃんは豊かな胸を張った。

「あたしは一人っ子だから、先輩のこと、本当のお姉ちゃんみたいに思っているんです。だから、先輩にはもっと幸せになって貰いたいんです。それだけなんです」

 こんなに一生懸命、私のために心を砕いてくれる人が居る。

 心の底からジンワリと温かいものがあふれだし、寒さに凍えた体を温めてくれる。

 私って、なんて果報者なんだろう。

 私は美加ちゃんに出会えただけでも、この会社に入った意味がある。

 もしも又これから私が傷ついて泣くことがあったとしても、美加ちゃんなら、その愚痴を快く聞いてくれるだろう。

 一緒に泣いてくれるだろう。

 そう思える友達がいるって、なんて幸せなんだろう。

「ありがとう。私も、頑張るよ」

「そうそう。頑張ってくださいよー」

 真剣に心の内を吐露した反動か、美加ちゃんは少し照れくさそうにおどけてそう言うと、ピッと親指を立てた。