「……キス、したんですか?」

 事実を確認するように、美加ちゃんは静かに口の中で復唱する。

 その表情に浮かんでいるのは、驚きと、何かを逡巡するような難しげな色。

 それは、日頃元気な美加ちゃんがあまり浮かべたことがない種類の表情で、意味もなく胸の奥がざわめく。

 もしかして美加ちゃん、怒ってる?

「……うん。あ、でもほら。私も課長もお酒が入っていたから、その場の雰囲気でって言うか。偶発事故って言うか。まあ、そんな感じだから、特別意味のあることじゃないのよ」

 きっと、そうだ。

 自分に言い聞かせていたら、美加ちゃんはニコリともせずに固い表情で、鋭すぎる質問を投げてきた。

「先輩は、課長にそのキスの意味を聞いたんですか?」

「え?」

「どうしてキスしたのか、聞いたんですか?」

「ううん……」

 否、と頭を振る私に、美加ちゃんはぴしゃりと言い放った。

「どういうつもりなのか、ちゃんと聞かなきゃだめです」

「でも……」

「デモもストもないです。このままウヤムヤになって、課長は婚約者とラブラブでそのうち結婚なんかしたりして、先輩は一人寂しくこのクソ忙しいお堅い仕事一筋に生きる、なんてことになっても良いんですかっ?」

 淡々としたトーンの声なだけに、迫力が違う。

「堅いお仕事って、上手いこと言うわね美加ちゃん」