「先輩。あたしがただの好奇心で、しつこく聞いていると思います?」

「ううん。思わないけど……」

 その私の言葉に、美加ちゃんはニコリと口の端を上げた。それはもう、まさに『してやったり』の会心の笑顔。

「語るに落ちましたね。『思わないけど』の次に出る言葉は『言えない』。ってことは、他にも何が重大事件があったということ。ですよね?」

「いや、それは、『思わないけど、何も無いから言えない』ってことで……」

「先輩。嘘つきは、泥棒の始まりですよ?」

 うん? と悪戯めいた瞳で見上げられ、背筋に嫌な汗が伝い落ちる。

 うううううっ。

 やっぱり、私は、嘘を付くのが超ド級に下手くそなのだと、悲しくなる。

「先輩?」

 もう、限界。もうこれ以上は、嘘がつけない。

 観念した私は、しぶしぶ口を開いた。

「パーティの後の二次会……の後に、課長とね」

「二次会の後に、課長と?」

 ゴクリと、美加ちゃんは固唾をのんで、次の私のセリフを待っている。

 ええい、くそっ。

 どうせ、何かあったことはバレているんだ。

 相手は美加ちゃんだ。噂になる心配はないから言っちゃえっ!

「エレベーターの中で、その、あの……」

 言葉にしようとしたその瞬間。一気に『あの光景』が脳裏を駆け巡り、顔に血が上って、キスのキの言葉が音声にならない。

「エレベーターの中で、なんですかっ? 何があったんですかっ?」

「えっと……キス、しちゃいました……みたいな?」

 言葉を放った刹那、落ちた沈黙が痛すぎる。