「ひゃー。寒っ」

 東北育ちでも、寒いものは寒い。

 むしろ、ジメッと湿度が高いためか、更に寒く感じる。

 不摂生と精神的ダメージで、バイオリズム低下しまくりの今の私では、風邪を引きそうだ。

 このクソ忙しい時期に、寝込みでもしたら目も当てられない。

 仕事しか取り柄がないのに。と、自分で自分をかき抱き、首をすくめた。

「美加ちゃん、今日は、やめておかない?」

「やめません! じっくり、とっくり、聞かせてもらいますよ、週末デートの顛末を」

「いやぁ、さっき言ったのが全部だから。他には本当、何もないです誓います」

「本当ですか?」

 真っ直ぐ見上げてくる、小型犬を思わせる愛らしい大きな瞳がいつになく真剣な色を帯びていて、うっと、答えに詰まってしまう。

「えーと……」

「何も、なかったんですね?」

「……」

 真っ直ぐな瞳に見据えられて、視線がふらふらと泳ぎまくる。

 いや、あったけどさ。やっぱり、言えないよ。

 言葉にすればそのぶん、又心の奥が鈍い痛みに苛まれることになる。一番の方法は、考えない事。

 なんだけど……。

 美加ちゃんは、追及の手を緩めてはくれない。