「え? 飯島さん、婚約者がいるのに先輩に告ったんですかぁ!?」

 美加ちゃんは若干ピントのずれた驚き方をして、声を荒げた。そのとたんピッと周囲の視線が集まり、『あははは』と笑顔を振りまき身を縮める。

「……声、でかいよ、美加ちゃんっ」

「……すみませんっ」

 二人でぼそぼそ、頭を寄せて囁きあう。

「婚約者じゃなくて、その一歩手前の候補ね。それに、婚約者候補がいたのは飯島さんじゃなくて谷田部課長の方なの……」

「えっ? だって、奥さんは?」

 訝しげに眼を瞬かせる美加ちゃんの反応は、もっともだと思う。

 私だってもの凄く驚いたよ。

 奥さんに会ったらそれはそれでショックだと思うけど、それを飛び越して、婚約者、それも候補だもの。

「奥さんは真理ちゃんの出産で亡くなったんだって……で、今は婚約者候補がいて、真理ちゃんと課長とその婚約者候補さんと三人で仲良く一緒に遊園地に来てた――のと、ばっちりバッティングしたと言うわけよ」

 一瞬の間があって。

「ええええーーーーっ!?」

 さすがに美加ちゃんも予想外だったのか。

 彼女は素っ頓狂な叫び声を上げ、ガタンと大きな音を立てて椅子を押し倒しながら立ち上がった。