「きっぱり断った……んだけどねぇ。何だか『諦めませんから、そのつもりで』とか言われちゃってね。頭痛いのよ……」
「げ。マジですか? うーん。爽やかに見せかけて意外と粘着君? ってか何気に俺様入ってます?」
『爽やか系粘着俺様』
眉をひそめる美加ちゃんに、「そ、それはあまりに気の毒よ」と思わず苦笑い。
いい人だとは思うのよ、飯島さんは。ちょっと困った人ではあるけれど。
「……で?」
頬杖をついた美加ちゃんは、チラリんと、意味ありげな眼差しと疑問符を投げてくる。
「え?」
「他にも何か、ありましたよね?」
妙に迫力のある低い声音に、うげっ! っと、思わず口に含んだコーヒーを噴き出しかけた。
「な、何もないわ……よ?」
ゲホゲホと、むせくり返りながら涙目でなんとか声を絞り出す。
――す、鋭い。
「……ふーん。隠すんだ。隠しちゃったりするんだ。先輩だけは、あたしに嘘を付かないって信じてたのに……」
くすんと、悲しげな瞳でウルウルと見つめられては、もう降参するしかない。
明らかにポーズだと分かっていても、無下にできないこの性格の脆弱さが恨めしい。
「……婚約者候補が、いたのよ」
敢えて伏せていたことを、ボソリと吐き出す。