それにしても。
知らぬは私ばかりなり、だったのね。
しかし、さすがの飯島さんも、美加ちゃんにかかったら形無しだ。
「ったく問題は課長ですよね」
と、美加ちゃんの興味の矛先が課長に移って、ドキリとする。
ふ、触れないでほしいなぁ。
突っ込まれたら、嘘をつき通す自信がないわ……。
そんな私の心配は、ばっちり的中し、美加ちゃんトークは炸裂した。
「いくら飯島さんの邪魔が入ったからって、せっかく雰囲気ばっちりのシチュエーションだったのに、課長ったら何もアクションを起こさないなんて、意外と根性なしですねっ。男だったら、こうもっとグイグイっと! ね!?」と、今度は、ぷんぷんと頬を膨らます。
私に同意を求められても困ってしまう。
それに、……アクションは、起こしたんだけど。
さすがに、美加ちゃんにも、『帰り際、エレベーターの中で思いっきりキスしちゃいました』なんて言えない。
美加ちゃんを信用していないからじゃなく、あれはやっぱり酒の席での事故。私自身が忘れたいことだから、今更話題にはしたくなかった。
「それでどうするんですか、飯島さんへの返事は?」
フツフツと湧きあがった様子の美加ちゃんの怒りの矛先は、再び飯島さんに向けられた。