「――高橋さん」

 な、なんだろう、今日の検査のことで質問でもあるのかな?

 それとも、他のこと? と、少しドキドキしてしまう。

 やっぱり、この声で話しかけられると鼓動が早まるのは、理性が及ぶ範疇(はんちゅう)のことじゃない。ほとんど条件反射。自分では、どうしようもない。

「は、はい、なんですか?」

「――相変わらず、面白い人だね」

「はい、そうで……」

 はい?

 ――まるで、世間話をするように。

 谷田部課長がサラリと放った言葉に反射的に頷きかけた私は、その意味するところに『はた』と気付き、身を強ばらせた。

 この男は今、『相変わらず』と言った。

 つまり、以前から私を知っていると言うことだ。

 おまけに、続く言葉は『面白い人だね』。

 ってことは、成り立つ図式は一つしか思い浮かばない――。

 谷田部東悟=榊東悟。

 私は、隣で愉快そうにクスクス笑い出した谷田部課長に、呆然と、ハンドルを握りしめながら驚きの視線を向けた。

「あ、あ、あ……!?」

 じゃ、なにか?

『すっとぼけ』だったのかーっ!?

「――八年。いや、もう九年になるかな? 久しぶりだね、 梓――」

 ニッコリ。

 動じるふうもなく。

 谷田部課長様は、眩しいくらいの笑顔を浮かべなさった。

 いや。

 浮かべやがった――。