ああ、そうだった。

 確かに衝撃の連続で、とんでもない怒涛の週末だったけど、素敵な思い出もあったのだ。

「これ、私がいただいてしまって、良いんですか?」

 課長の顔に、『父親』の慈愛に満ちた柔らかい笑みが浮かぶ。

「どうぞ、迷惑でなければ貰ってやってくれないか。ちゃんと忘れずに君に渡すように、厳しく言いつかっているから」

 腰に手を当てて『忘れちゃだめよ。パパ!』と、課長に『厳しく』言いつけている真理ちゃんの様子が目に浮かんで、ますます私の笑みは深くなる。

「ありがとうございます。とっても喜んでいたって伝えて下さいね」

「ああ、伝えるよ。真理も喜ぶだろう。それと……」

「はい?」

 ためらうように濁された言葉の続きが気になり、落としていた視線を何気なく上げた。その瞬間、真っ直ぐな視線に捕まって思わず息を飲む。

 だるまさんがころんだ。

 動けない。

 磁力を帯びたような真剣な眼差しに捕らわれて、視線が外せない。

 痛いほどの沈黙が流れたのは、たぶんほんの短い時間。

 でも、私の鼓動が暴れまくるには充分な時間だった。

「……課長。他にも何か?」

 なんとか言葉を捻り出し、強張った顔に引きつった笑いを張り付ける。

 ふと、もしかして私と飯島さんとの関係について聞きたいのだろうか? と言う考えが頭に浮かんだけど、速攻で削除した。

 そんなこと、課長が気にするわけはない。

 私はただの部下で、課長は部下のプライベートには関知しないと明言しているのだから。でも――。

「……いや、なんでもない。用件はそれだけだ」

 静かに落とされた呟きの陰に隠されているはずの課長の本心を、知りたいと思うのは私のエゴだろうか。