「週末は、色々とお疲れさま」
朝だからか、いつもよりも低めの優しい響きを持った声音が耳朶をたたき、条件反射で身が強張るのを止められない。
「いいえ私はぜんぜん。課長こそ、お疲れ様でした」
軽く会釈をして、先に歩き出した課長の後を少し遅れて付いて行く。
ああ私って、どこまでも間抜けだ。
いつも私より先に出社しているこの人と鉢合わせする可能性が、頭からスコーンと抜け落ちていたなんて。
どこかで時間をつぶして来るんだった……。
なんて、今更どうにもならないことをウダウダ考えていたら、課長がエレベーターの前で足を止め、同じ一階のフロアにある自販機コーナーに視線を走らせて呟いた。
「コーヒーでも飲まないか?」
「えっ?」
げげっと、笑いが引きつる。
何を、言い出すんだこのお人。
「どうせ、まだ誰も来てないだろう?」
そりゃあ、そうだけど。
課長と二人っきりで、モーニング・コーヒー?
冗談でしょう?
「それに、君に、渡したいものがあってね」
「え?」
課長が私に、渡したいもの?
遊園地で、何か忘れ物でもしたのかな、私。
パーティで着替えを忘れたこともあって、なんだか自分の素行に自信が持てない。それに。
「ええっと……、はい。ご相伴させて頂きます」
今の私に、断る理由も根性もなかった。