それに、奥さんが亡くなっていたことと、現在進行形で婚約者候補がいること。知ってしまった事実があまりにもショックで、まだその衝撃から抜け切れていない。

 その上、飯島さんの『俺は諦めないですから、そのつもりでいて下さい』宣言。

 頭が痛い、痛すぎる。

「はあぁあぁぁっ……」

 やっぱり、週末は、何かに呪われてるとしか思えない。

 そういえば、週末になると仮面を被った殺人鬼が出没して、人を襲いまくる外国のホラー映画があったなぁ……。

 なんて、ネガティブ思考全開でうなだれながら特大のため息を連発しつつ、とぼとぼと、まだ閑散としている会社の社員通用口に足を踏み入れた、その時。

「おはよう、ずいぶん早いな」

 聞き覚えのありすぎる低音ボイスがすぐ後ろから飛んできて、ギョッと足を止めた。

 うわー。うわー。

 まだ心の準備ができてないよー。

 なんでいきなり、会うかな。

「課長、おはようございます」

 ニコリと引きつった笑顔を作ってどうにか声を絞りだし、振り返ればそこには声の主、谷田部課長がいつものニコニコスマイルを浮かべて立っている。

 さすがと言うか小憎らしいと言うか、その表情に怒涛の週末の余波は欠片も浮かんでいない。