波乱含みどころか、怒涛(どとう)のような『波乱しかなかった』パーティとおまけの遊園地デートのダブルヘッダーで、すっかり体力と精神力を使い果たした週末が明けた月曜日の朝。

 寝不足で重い頭を抱えつつ久々のバス通勤をしてきた私は、バスの運行時間の関係でいつもよりもだいぶ早い時間帯に会社に着いてしまった。

 チラリと視線を走らせた腕時計の針は、午前七時十五分。

 いつもよりも、四十五分も早い。

 まあ、やることはいくらでもあるから、仕事でもしよう。

 それにしても。

「ああああ、気が重い、重すぎる……」

 今から課長に会って顔を突き合わせて、はたして私は平常心でいられるのだろうか?

 日頃でもかなり怪しいのに。

 色々な意味で衝撃的だった週末の余韻が覚めやらぬ今日では、さすがに自分でも表情に出さずにいられるか、はなはだ自信がない。

『私は、部下のプライベートまでは関知しませんので――』

 その一言で、全身に走った衝撃。

 降りていくエレベーター。

 濡れた頬にそっと触れた、指先の温もり。

 背に回された力強い、腕の感触。

 胸から伝わる、熱と鼓動。

 向けられた、真摯な黒い瞳。

 引き寄せられるように重ねあった、唇の熱さ。

『梓、俺は……』

 苦しげに落とされたその呟き。

 あの夜の課長の言葉や表情が脳裏を過り、治まることのない胸の痛みがズキズキと疼き、その存在を主張してくる。