「え~と、まずは駅に設計士の先生と、ゼネコンの担当監督をお迎えに行きます。そのあと、検査現場になる、車で五分ほど離れた所にある第一工場に向かいます」
準備万端。
整ったところで、私は検査に向かうべく会社の営業車の運転席にのりこみ、助手席に座る谷田部課長に、これからのメニューを説明した。
「はい、どうぞ。取りあえず、私は仕事内容を見学させて貰うだけですから、気にせずいつも通り仕事を進めてください」
って、言ってもね。
これじゃまるで『自動車仮免許取得中!』のノリだ。
隣に乗っている『教官』の些細な反応にも、何かマズイ事でもやらかしたんじゃないかって、神経がビクビクと過剰反応する。
緊張しちゃうわ、これ……。
それに大体、あなたは、榊東悟なんでしょうか!?
それとも、他人のそら似!?
「はい……、分かりました」
喉まででかかった聞けるはずもない言葉を飲み込み、私は愛想笑いを浮かべて車を走らせた。
ええい、もう。
こうなりゃ、腹をくくるしかない。
この人は、課長。新任の課長。それ以外の何者でもない。
今は、検査に集中、集中!
心の中でそう自分に言い聞かせながら、ちょうど赤信号で車を止めた時だった。それまで、沈黙していた谷田部課長が、おもむろに口を開いた。